Date:2026年09月23日(水)
関内ホール

髙木凜々子さんを中心に、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のストリングスメンバーが共演し、モーツァルトからドヴォルザーク、バッハ、パガニーニ、そして横浜ゆかりの中田喜直まで、弦楽器の多彩な魅力を楽しめるプログラム。
W.A. モーツァルト
ディヴェルティメント ニ長調 K.136(125a)
モーツァルトが16歳だった1772年に作曲した弦楽合奏作品です。
「ディヴェルティメント」とは、もともと宮廷や社交の場などで楽しむための、親しみやすい娯楽音楽を意味します。このK.136は、その中でも現在特に演奏される機会の多い名作です。
全3楽章で構成され、明るく生命力にあふれた第1楽章、穏やかで美しい旋律が広がる第2楽章、そして軽快なテンポで駆け抜ける第3楽章へと進みます。
若きモーツァルトらしい瑞々しさと、すでに完成された作曲技法の両方を感じられる作品です。
今回のような少人数による弦楽アンサンブルでは、一つひとつの旋律や各奏者の掛け合いがより鮮明に伝わり、モーツァルトの緻密で透明感のある音楽を楽しむことができます。
A. ドヴォルザーク
弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 作品96 B.179「アメリカ」より 第4楽章
チェコを代表する作曲家、アントニン・ドヴォルザークが、1893年にアメリカ滞在中に作曲した弦楽四重奏曲です。
作品全体が「アメリカ」の愛称で親しまれています。
ドヴォルザークは1892年にニューヨークのナショナル音楽院院長として渡米し、アメリカで耳にしたさまざまな音楽や、自身の故郷ボヘミアへの思いを作品へ取り入れていきました。
今回演奏された第4楽章は、軽快で躍動感にあふれたフィナーレ。
冒頭からリズミカルな音楽が勢いよく進み、ヴァイオリンをはじめとする各楽器が生き生きと掛け合います。一方で、その中にはどこか素朴で懐かしい響きも感じられます。
華やかさと郷愁が自然に共存しているところが、ドヴォルザークらしい魅力です。
J. パッヘルベ
カノン
17世紀ドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベルによる、クラシック音楽を代表する名曲の一つです。
「カノン」とは、ある旋律を別の声部が少し遅れて追いかけていく作曲技法。
この作品では、低音部が一定の和声進行を繰り返す上で、ヴァイオリンの旋律が少しずつ変化しながら重なっていきます。
静かでシンプルな始まりから、音楽が進むにつれて旋律が細かくなり、少しずつ豊かな響きへと広がっていくのが大きな特徴です。
同じ和音進行が繰り返されているにもかかわらず、旋律の変化によって自然な高揚感が生まれていきます。
結婚式などでも耳にすることの多い親しみやすい作品ですが、弦楽器だけで聴くと、それぞれの音が重なって一つの響きになっていく「アンサンブルそのものの美しさ」をより深く感じられます。
J.S. バッハ
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006より「ガヴォット」
ヨハン・セバスティアン・バッハがヴァイオリン一挺のために残した「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」。
その中でも第3番は、明るく華やかな雰囲気を持つ作品です。
今回演奏された「ガヴォット」は、フランスの舞曲をもとにした楽章で、優雅さと軽快さを併せ持っています。
最大の特徴は、本来一つの旋律を奏でる楽器であるヴァイオリン一挺だけで、まるで複数の楽器が同時に演奏しているかのような豊かな響きを作り出すところ。
重音や和音、旋律と伴奏を巧みに組み合わせることで、たった一本のヴァイオリンから立体的な音楽が生まれます。
ヴァイオリニストの技術だけでなく、音の組み立て方や表現力にも注目したい一曲です。
J. シュトラウスII世
「南国のバラ」
樋口康雄 編曲
「ワルツ王」と呼ばれたヨハン・シュトラウス2世による華麗なウィンナ・ワルツです。
原題はRosen aus dem Süden(南国のバラ)。
1880年に作曲され、シュトラウス作品の中でも特に美しい旋律を持つワルツの一つとして知られています。
優雅な序奏から始まり、性格の異なる複数のワルツが次々と登場します。
華やかな旋律だけでなく、少し切なさを感じさせる部分や、ゆったりと歌うような部分など、さまざまな表情が一曲の中に詰め込まれています。
今回の演奏では、ヴァイオリンを中心とした編成ならではの軽やかさと透明感も聴きどころ。
ウィーンの舞踏会を思わせる優雅な雰囲気と、弦楽器の華やかな響きを楽しめる作品です。
N. パガニーニ
24の奇想曲より 第24番
L. アウアー編曲
ヴァイオリン史上最高峰のヴィルトゥオーゾの一人として知られるニコロ・パガニーニ。
彼がヴァイオリンのために残した「24の奇想曲(カプリース)」の最後を飾るのが、第24番です。
短い主題に続いて、さまざまな技巧を用いた変奏が次々と展開していきます。
速いパッセージ、重音、跳躍、左手の高度な動きなど、ヴァイオリンという楽器の可能性を極限まで引き出すような作品です。
単純に「速く弾く」だけではなく、一つひとつの変奏で音色や性格を変化させていく表現力も必要とされます。
なお、この第24番の主題は後世の作曲家にも大きな影響を与え、ブラームスやラフマニノフなども、この旋律をもとにした作品を書いています。
今回のプログラムの中でも、ヴァイオリニスト・髙木凜々子さんの技巧と表現力を存分に味わえる一曲です。
横浜とゆかりのある作曲家
中田喜直メドレー
「ちいさい秋みつけた」
「雪の降る町を」
「早春賦」
「夏の思い出」
コンサートの最後を飾ったのは、横浜にゆかりの深い作曲家・中田喜直の作品を中心としたメドレーです。
中田喜直は、「夏の思い出」「ちいさい秋みつけた」「雪の降る町を」など、現在でも広く歌い継がれている数々の歌曲・童謡を残しました。
西洋クラシック音楽を基礎にしながら、日本語の響きや日本の四季、風景、そして人々の心情を自然な旋律にすることに長けた作曲家です。
ちいさい秋みつけた
サトウハチローの詩に中田喜直が曲を付けた、日本を代表する童謡の一つ。
「秋そのもの」ではなく、身の回りにある小さな変化から秋の訪れを感じ取る作品です。
どこか懐かしさを感じさせる旋律とともに、日本人が持つ季節への繊細な感覚が表現されています。
雪の降る町を
雪の降る静かな町の情景と、そこに重なる人の記憶や思いを描いた中田喜直の代表曲です。
ゆったりとした旋律の中に、冬の静けさと温かさ、そしてわずかな寂しさが共存しています。
弦楽器で演奏することで、歌詞がなくても旋律そのものから情景が浮かんでくる作品です。
早春賦
「春は名のみの 風の寒さや」で知られる、日本を代表する唱歌。
ここは少し補足が必要で、「早春賦」の作曲者は中田喜直ではなく、その父である中田章です。
まだ寒さの残る早春、春を待ち望む日本の風景を描いた作品で、中田家の音楽的なつながりを感じさせる一曲として今回のメドレーに組み込まれています。
夏の思い出
「夏が来れば思い出す」で始まる、中田喜直を代表する作品。
江間章子の詩に描かれた尾瀬の自然を、伸びやかで透明感のある旋律で表現しています。
日本の夏の風景と記憶を呼び起こすような音楽で、歌詞がなくてもその情景が浮かんでくるほど印象的な旋律です。
「ちいさい秋みつけた」から「雪の降る町を」「早春賦」「夏の思い出」へ。
日本の四季をめぐるように名曲がつながっていく構成は、今回のコンサートを締めくくるのにふさわしいプログラムでした。
横浜で聴く、弦楽器の名曲
関内ホール40周年、横浜出身のヴァイオリニスト、神奈川フィル、そして横浜ゆかりの中田喜直。
